閉鎖的な状況で権威者の指示があると、人は残酷になることが証明されている

日大悪質タックル事件の選手会見は、どうしてもミルグラム実験を思い出させる。ミルグラム実験は閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況を実験したもの。50年近くに渡って何度も再現できた社会心理学を代表する模範となる実験で、概要は次の通り。

ミルグラム実験

  • 新聞広告で集められた実験者は、生徒役(実際はサクラ)と教師役に分けられる。
  • 被験者たちはあらかじめ「体験」として45ボルトの電気ショックを受け、「生徒」の受ける痛みを体験させられる。
  • 「教師」は「生徒」に問題を出す。
  • 「生徒」が間違えると、「教師」は「生徒」に電気ショックを流すよう指示を受ける。
  • 電圧は最初は45ボルトで、「生徒」が一問間違えるごとに15ボルトずつ電圧の強さを上げていく。
  • 「生徒」は流された電気(実際は流されていない)に応じて、電気が流されたフリをする。本当の被験者の「教師」は、「生徒」がサクラであることを知らない。
  • 記録映像で確認できる生徒のアクションは、まるで拷問を受けているかの如くの大絶叫で、ショックを受けた途端大きくのけ反る等、一見してとても演技とは思えない迫力であった。

75ボルトになると、不快感をつぶやく。
120ボルトになると、大声で苦痛を訴える
135ボルトになると、うめき声をあげる
150ボルトになると、絶叫する。
180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
270ボルトになると、苦悶の金切声を上げる。
300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
315ボルトになると、壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
330ボルトになると、無反応になる。

  • 被験者が実験の続行を拒否しようとする意思を示した場合、白衣を着た権威のある博士らしき男が感情を全く乱さない超然とした態度で次のように通告した。
  1. 続行してください。
  2. この実験は、あなたに続行していただかなくてはいけません。
  3. あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。
  4. 迷うことはありません、あなたは続けるべきです。

4度目の通告がなされた後も、依然として被験者が実験の中止を希望した場合、その時点で実験は中止された。そうでなければ、設定されていた最大ボルト数の450ボルトが3度続けて流されるまで実験は続けられた。

実験の結果は驚くべきもので、被験者40人中26人(統計上65%)が用意されていた最大V数である450ボルトまでスイッチを入れた、というものだった。中には電圧を付加した後「生徒」の絶叫が響き渡ると、緊張の余り引きつった笑い声を出す者もいた。全ての被験者は途中で実験に疑問を抱き、中には135ボルトで実験の意図自体を疑いだした者もいた。何人かの被験者は実験の中止を希望して管理者に申し出て、「この実験のために自分たちに支払われている金額を全額返金してもいい」という意思を表明した者もいた。しかし、権威のある博士らしき男の強い進言によって一切責任を負わないということを確認した上で実験を継続しており、300ボルトに達する前に実験を中止した者は一人もいなかった。かなり気分が悪くなるが、詳しくはwikipediaでも見て欲しい。

日大悪質タックル事件との類似点

日大悪質タックル事件の会見をみても分かる通り、加害者の選手は質問に自分の言葉で誠実に答えていた。その姿は日本代表にふさわしいアスリートだった。しかし、彼は関西学院大学の選手を車椅子生活にしかねないプレーをした。会見の姿からは想像できないことだ。

しかし、閉鎖的な状況で、権威者の指示の下では、人は残酷になる事実を知っていれば、日大悪質タックル事件の構造的な問題がわかってくる。根本的な問題は、閉鎖的な状況と、権威者の指示である。加害者は「実行した自分が最終的な責任者」と言っていたが、彼であってもなくてもそのような状況は同じことをしていただろう。

再発を防ぐには

加害者が「実行した自分に最終的な責任がある」と言っていた。この態度は立派だし、心がけは必要だと思うが、実験が示すように解決策にはならない。人間はそのようにできてしまっていて、心がけではなくてシステムで対応するしかない。私が考える再発防止策は次の通り。

  1. 閉鎖的な状況を無くす
    1. 監督やコーチからおかしな指示が出た場合や、理不尽を強いられたりした場合、通報できる仕組みを作る。通報を受けた側は、絶対に見捨ててはならない。
    2. 今回はプレーがたまたまスタンドから撮影されていたので露見した。あの動画がなかったら明るみに出なかった可能性もある。全てのフィールドを映す固定カメラを1台設置して、クレームがついたらプレーを検証できるようにする。
  2. 監督やコーチの権威性を無くす
    1. 監督に「日本代表にいっちゃだめだよ」とかコーチに「坊主にしてこい」なんて言わせてはいけない。どんな権限が監督やコーチに与えられているのか文章で書く。権限外のことは指示を出させない。
    2. 監督やコーチは選手が選ぶ。解任する権利は選手に与える。

どうだろうか。

“閉鎖的な状況で権威者の指示があると、人は残酷になることが証明されている” への1件の返信

  1. オウム、ナチスドイツ、浅間山山荘、戦時中の軍隊、最近の相撲界…そんな、特殊な世界で起きた特殊なおぞましい出来事と重なりました❗ぞっとしました❗平和な今の世界で、しかもスポーツ界で、「敵に塩を送る」美徳の世界で、氷山の一角なんでしょうか? 独裁者、マインドコントロール…見えにくいからこそ、怖い❗

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